ビジネスマナー講師
井上 リカ
- ――ビジネスマナーの講師になったきっかけは何ですか?
- 30年ぐらいビジネスマナーの講師をしていますが、その前は一般の商社に勤めていました。
しかし、もともと講師業に夢を持っていたので、一度挑戦してみたいという気持ちになり、その時に普及し始めたワープロのインストラクターになりました。
スクールに入ってワープロを教えるだけではなくて、インストラクターを育てることや秘書学やマナーを教えることもありました。それに合わせて管理業務も多くなってきてしまい、いつの間にそちらの比重の方が大きくなっていきました。教えるという本来の目的が果たせなくなってきたので、フリーになって講師業一本にしようと考え、ビジネスマナーの講師になりました。
- ――どのような経緯でエール学園で教えることになったのですか?
- 実は私は学生の時「エールリカレントビジネス学院」で学んでいたのですが、フリーになろうと思ったときに、卒業生である私に当時お世話になった先生から声をかけていただき、エールの専門学校(対日本人)で働くことになりました。エールでのお仕事が30年ぐらいになります。
- ――講師はとても難しいお仕事だと思いますが大変ではありませんか?
- もちろんずっと大変なんですが、数年前からこんな風に例えるようになりました。
たとえば、サッカー選手がずっと試合ばかりやりますよね?きっと準備も試合も大変だし、サッカーをずっとやっているけれど飽きるという感覚ではないと思うんですよ。それに近いと思います。
授業が毎回、試合ではないですけど、ライブ感みたいな毎回相手が変わったり、相手の様子が変わったりする中で大変な中でも反応が返ってくるので、自分の手ごたえなどが確認できます。
毎回手ごたえを感じることができるうえ、人を育てるという仕事なので、やりがいがあります。エールの学生の場合、就職が決まり、卒業していく姿を見送ることが醍醐味ですね。
毎回大変ですが、新鮮なものとか醍醐味とかライブ感ある手ごたえがあるので楽しいと思っています。 - ――普段はどのようなことを教えているのですか?
- エール学園の場合、基本的に2年間単位で受け持ちます。
1年目は基本的なマナーの基礎知識、日本の学校の団体行動の部分とすぐ使う就活マナーです。
2年前期は就活マナーと面接の動き(企業へのメール、企業に電話、送り状作成など)、後期は実際に就職した後のロールプレイの練習を中心に勉強したことを使えるような練習をしています。
少し前までは同じクラスを持ちあがれていたのですが、今は学生数も多くなってきているので、持ちあがれないことが多くなってきています。そのためマナー講師間で骨組みは揃えています。 - ――留学生と日本人への教え方の違いはありますか?
- 知っている言葉がある、ないで説明することが変わるということは当然なんですが、面白いのは日本人の方がビジネスマナーを堅苦しいと思っている人が多いことです。
外国人はある程度日本のことが分かって来ている人が多いので、日本のマナーはすばらしいという感覚です。 講師はその素晴らしさを身につけてもらうためのやり方、表現の仕方を教えるというスタンスです。
社会経験のある日本人や日本の学生はビジネスマナーが堅苦しいと思っていたり、やらされている感が強かったり、自分を殺しておけばいいんでしょうというような概念があるので、講師はその概念を決してそういうものだけではないという話から入っていくんですよ(笑) - ――印象に残っている生徒とのエピソードはありますか?
- 初期のころになりますが、中国籍の女の子で無表情(無駄に笑わない)という学生が多かったです。日本で面接を受けるときは笑った方が得なんですが…。でも、それがなかなか伝わらなくて…「愛想を振りまきなさい」とかではなくて、「笑うことで相手の人が安心するんですよ」ということが伝わらなくて苦労しました。しかし、周りの学生が内定をもらう中で自分自身がなかなか内定をもらえなかったので、だんだん納得して最後は笑顔を見せてくれるようになりました。
宗教的な理由で人にはお辞儀をしないですという学生もいました。
日本の企業で働きたいと場合はお辞儀をしないといけないという部分を丁寧に説明して受け入れてもらいました。お辞儀をしないなら、そのコミュニティーだけで仕事するのであれば問題ないけれどそれは難しいことなども伝えました。
お辞儀とは相手を信頼しているという形なんですよ。目線を外して頭を差し出すとは刀を持っている時代であれば命がけなんですよね。そういうところからきているのでという話もしました。
授業の中では日本の文化として受け入れてお辞儀をしてくれるようになりました。 - ――今後の課題などありますか?
- エール学園で今年からアクティブラーニング(生徒が能動的に考え、学習する教育法)を取り組んでいるのですが、講師陣にも発信があったので、それをどう実現していけるかが今後の課題ですね。
試行錯誤中です。 - ――エール学園の生徒に一言お願いします。
- 信頼は貯金できるので信頼される人になってください。
信頼を貯金しておけば、失敗した時に助けてくれる人が増えます。
マナーは信頼に直結すると思います。相手を尊重する気持ちをマナーで表現することで信頼を得ることができます。マナーを勉強する意義がそこに繋がって、人と繋がる力になればいいなと思います。
信頼される人になってください^^